生活保護に係る住民監査請求(小紫生駒市長等に損害賠償請求)

023年8月31日
〒630-0288
奈良県生駒市東新町8番38号
生駒市監査委員 殿
                       〒630-0134  
奈良県生駒市あすか野北3-1-3
                         住民監査請求者代表
阪口 保
    他15名
                        (別紙請求人目録記載の通り)

住民監査請求書

第1 申立の趣旨

  生駒市長は、(1)元生駒市福祉事務所長影林洋一(2015年度~2019年度)に対し1045万0267円(後述するAに対する返還金913万6016円+後述するBに対する返還金131万4251円の合計)、(2)同石倉真由美(2020年度)に対し73万8785円(後述するCに対する返還金)を請求するとともに、(3)小紫雅史に対し、1118万9052円(後述するA~Cへの返還金の合計)を損害賠償請求するとともに、生駒市によって、生活保護利用者らの健康で文化的な生活が脅かされることのないよう再発防止策を定め、これを公表することを求める。

第2 申立の実情
1 本請求の概略
  生駒市においては、同市内在住にかかる生活保護制度の利用者(A~C)が、後述する年金時効特例法にかかる特例の対象者であったことが明らかとなった際、厚生労働省から、5年以上前の遡及年金については生活保護法63条にかかる返還対象としてはならない旨の連絡がなされていたにもかかわらず、これを無視し、A~Cから、根こそぎ返還させるに至った。ところが、昨年、これが露見するや、A~Cに対し、違法な返還額に利息を付して支払うことを余儀なくされるに至った。
  本住民監査請求は、上記のような違法な取扱によって、生駒市が蒙ることになった損害について、生駒市長及びその担当職員に対し、その賠償を請求するよう求めるものである。
  また、ここ数年、生駒市の生活保護行政に関しては、同制度の利用者から過度に抑圧的となっているとの声が寄せられている。また、実際、生駒市においては、生活保護制度の利用を申請した者に対し、これを却下した処分が、奈良県によって取り消されるといった事案も生じている(甲5)。今回の件は、たまたま生じたものではなく、生駒市における保護行政全般に根ざした問題と見なさざるをえない。そこで、上記の賠償請求とともに、再発防止に向けた積極的な取組も求めるものである。
2 当事者
(1) 請求人らは、いずれも生駒市民である。
(2) 生駒市は、普通地方公共団体である(地方自治法1条の3)。
  生駒市長は、同市に関する事務を管理・執行している(地方自治法148条)。
  小紫雅史(以下「小紫」という)は、2015年4月27日から現在まで生駒市長の職にある。
(3) 生駒市福祉事務所は、社会福祉法14条1項の規定に基づき、生駒市に設置されている(生駒市福祉事務所設置条例(昭和46年10月26日条例第23号)1条)。
  生駒市福祉事務所は、生駒市生活支援課にかかる事務を分掌している(生駒市福祉事務所処務規則(平成25年3月29日規則第20号)2条2項)。したがって、生活保護法にかかる事務は、同事務所が分掌することになる。
  生駒市福祉事務所長は、「生活保護法第63条の規定による被保護者が返還する金額の決定に関すること」に関して、生活保護法19条4項、及び地方自治法153条2項の規定に基づき、生駒市長より権限を委任されている。
  ただし、生駒市福祉事務所長は、上記権限に属することであっても、「異例又は重要と認められるものは、あらかじめ生駒市長の指揮を受けなければならない」とされている(以上について、生駒市福祉事務所長に対する事務委任規則(昭和46年11月1日規則第18号))。
  ちなみに、影林洋一(以下「影林」という)は、2015年度から2019年度にかけて生駒市福祉事務所の所長の地位にあった。また、石倉真由美(以下「石倉」という)は、2020年度、同事務所の所長の地位にあった。
(4) 生活保護利用者A、同B、同C(以下「A」「B」「C」という)
  いずれも生駒市内在住にかかるもので、生活保護法にかかる各種扶助制度を利用、または利用していたことがあるものである。また、いずれもが、厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(平成19年法律第111号。以下「年金時効特例法」という)にかかる特例の対象者である。
  なお、A乃至Cの正確な住所氏名は、プライバシーの関係もあるので、厳密に特定することは控える。ただし、後述するように、本請求との関係では、そもそも厳密な特定までは不要である。
3 生活保護費の違法な返還請求とその返還に至る経緯
(1) 年金時効特例法の施行と厚生労働省からの事務連絡の発出
  2007年7月6日、年金時効特例法が施行される。
  また、同年12月28日、厚生労働省社会・援護局保護課長は、「生活保護受給者の「年金記録問題」への対応について」と題する事務連絡を発出した(甲4。以下「本件事務連絡」という)。
  その内容は、下記の通りである。

1 年金加入記録の確認等について
    ※省略
2 年金記録の訂正や判明により、年金が増額される被保護者及び新たに年金受給資格を得られる被保護者への対応について
    ※第1段落、第2段落は、省略
  なお、年金が遡及して支給された場合の取扱いについては、以下のとおりとするので留意されたい。
(1) 遡及して支給された年金のうち、5年以内の年金について
  従来通り、法第63条に基づく費用返還請求の対象となる。(法第63条による費用返還が決定された日から遡って5年間分の保護費相当分が対象。なお、原則として全額が返還対象となるが、当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合においては、一部返還額を控除しても差し支えないので留意されたい。(生活保護手帳(別冊問答集)問450参照))。
  なお、当該年金額が、返還対象となる保護費相当分を上回る分については、収入認定の取扱となる。
(2) 遡及して支給された年金のうち、5年以上前の年金について
  法第63条による返還対象とせず、保護の要否の判定、あるいは保護費の算出上、支給月において収入認定するものとして取り扱うこと。(ただし、6ヶ月以内で分割して収入認定する取扱いも可能。)
(2) 生活保護利用者への保護費の返還請求
  A~Cは、それぞれ生活保護制度を利用していたことがあるところ、いずれも年金時効特例法の対象者であった。その結果、各々、遡及して年金が支給されることになったが、生駒福祉事務所長は、その際、本件事務連絡の内容を無視し、5年以上前の年金についても、生活保護法63条に基づき、生駒市に返還させた。
  具体的には、次の通りである。
(ア) Aについて
  返還日 2015年6月15日
  返還金額 670万3480円
 ※以上について、平成27年6月9日付生保第72号(以下「本件返還処分1」という)
(イ) Bについて
  返還日 2019年5月15日  
  返還金額 112万6061円
 ※以上について、令和1年5月15日付生保第47号(以下「本件返還処分2」という)
(ウ) Cについて
  返還日 2020年10月29日
  返還金額  69万9245円
 ※以上について、令和2年10月21日付生保第342号(以下「本件返還処分3」という)
  なお、本件返還処分1~同3により生駒市が返還を受けた生活保護費については、後述するように、都道府県及び国の負担に応じて、生駒市から、各々に対し、さらに返還されている。
(3) 違法な返還請求の発覚
  ところが、2022年6月、生活保護費の管理の問題が生駒市議会において取り上げられるなどする中で、外部からの指摘を受け、A~Cに対し、本件事務連絡を無視した返還請求を行っていたことが明らかとなった。
(4) 違法に返還させた保護費及びこれに対する利息の支払
  2022年9月13日、生駒市福祉事務所長鍬田明年(以下「鍬田」という)は、A~Cに対する各返還処分を取消し、同月16日、生駒市は、同人らに対し、次の金額を支払った。
(ア) Aについて
  返還金元金 670万3480円
  利息    243万2536円
  合計    913万6016円(甲1)
(イ) Bについて
  返還金元金 112万6061円
  利息     18万8190円
  合計    131万4251円(甲2)
(ウ) Cについて
  返還金元金  69万9245円
  利息  3万9540円
  合計     73万8785円(甲3)
  以上、A~Cに対する支払の合計は、返還金元金(違法返還請求額)が852万8786円、利息が266万0266円、総合計が1118万9052円となった。
4 法律関係の整理
(1) A~Cへの返還請求の違法性について
  生活保護法63条は、「被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」と定める。
  ここで、同法63条が、返還額について、一律にその受けた保護金品に相当する金額全部とするのではなく、具体的な算定方法を定めることなく、保護の実施機関に一定の裁量を認めているのは、全額返還を原則としつつも、保護金品の一部が被保護者の自立及び更生に資する形で使用された場合には、その返還を免除することが被保護者の自立及び更生を助長するという生活保護制度の目的に適うこと、保護金品の全額を返還額とすることが被保護者の生活を著しく圧迫する場合には、被保護者世帯の自立を阻害し、生活保護制度の趣旨に反する結果となり得るからである。つまり、同法により返還を求める金額の決定は、もともと保護の実施機関による自由裁量ではない。
  さらに、本件事務連絡は、5年以上の遡及年金については、同法63条による返還の対象とはしない旨を明記している。
  したがって、影林によるA及びBに対する法63条に基づく返還請求(本件返還処分1及び同2)、石倉によるCに対する返還請求(同3)は、いずれも違法である。その意味で、昨年、鍬田が、A~Cに対する返還処分を取り消したこと自体は正当である。
(2) 故意・過失について
(ア) 影林及び石倉について
  影林は、本件返還処分1及び同2を行った。また、石倉は、本件返還処分3を行った。しかし、いずれも違法な処分で、後日、取消を余儀なくされている。
  そもそも、生活保護法63条の適用における年金時効特例法による遡及年金の取扱については、本件事務連絡に明記されている。これが、生駒市ないし生駒市福祉事務所の中で、どのような形で共有されていたのかについて、現時点で、請求人らにおいては、詳らかではない。しかし、その内容の重要性に鑑みれば、影林及び石倉に限らず、担当職員間において、容易に確認できる状態でファイリングされていたと考えるのが自然である。
  ちなみに、生活保護を利用するかどうかは、例えば、医療費の負担方法なども含め、対象者の生活に大きな影響を与えるが、対象者自身が生活保護制度について十分な知識や経験を有していることは稀である。したがって、生駒市福祉事務所において、生活保護法63条を適用し生活保護費の返還を検討するにあたっては、もともと極めて慎重な調査・検討が求められる。同条にかかる裁判例も集積している。
  今回も、例えばAに関して言えば、同人に対する生活保護費には多額の医療費(健康保険制度の適用のない10割負担にかかるもの)が含まれていたところ、生駒市福祉事務所の違法な取扱の結果、上記3(4)の返還を受けたとしても、結局は、生活保護の廃止後、本来、健康保険制度を利用していれば必要なかった多額の返還を求められる結果となってしまっている。しかも、遡及年金の金額も670万3480円と高額である。生駒市福祉事務所において、「1人1人の生駒市民の社会生活を支える」という意識が鈍麻していなければ、本件事務連絡の存在には、必ず気がついたと考えられるが、残念ながら実態はそうではない。
  現時点で、その具体的な経緯は明らかではないものの、結果として、本件事務連絡による注意喚起は無視され、違法な行政処分がなされてしまった。その責任は重大であり、影林らには、故意、少なくとも重過失が認められる(平成29年改正前地方自治法243条の2、同年改正後は同条の2の2)。
(イ) 小紫について
   小紫は、生駒市長として、予算の執行等の「財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者」(最判昭和62年4月10日民集41巻3号239頁)に該当する(地方自治法148条、同法149条)。もっとも、上記の通り、生駒市長は、生駒福祉事務所長に、「生活保護法第63条の規定による被保護者が返還する金額の決定に関すること」に関する権限を委任している。
  しかし、このような場合であっても、委任を受けた職員の財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失によりその補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときには、やはり、損害賠償義務を負うことになる(最判平成5年2月16日民集47巻3号1687頁)。しかも、本件返還処分1~同3のように、「異例又は重要と認められるものは、あらかじめ生駒市長の指揮を受けなければならない」とされていることは、上記の通りである。年金時効特例法にかかる遡及年金を生活保護法63条との関係でどのように処理するのかは、その返還金額が高額であることも相まって、「異例又は重要」にあたることは、論を待たない。
  ここで、本件返還処分1~同3に関しては、いずれも小紫が生駒市長に就任した後の出来事であり、その経緯の詳細は明らかではないものの、小紫の指揮の下に行われたと考えるのが自然である。
  以上の事実に鑑みると、小紫において、故意又は過失が存在したことは明らかであり、生駒市に対し、損害賠償義務を負っている。
(3) 生駒市に生じた損害について
  影林及び石倉によって違法な返還処分がなされた結果、生駒市において、返還金として受領した金額に加え、利息分についても、A~Cへ返還することを余儀なくされた。
  したがって、A~Cへの返還金額をもって生駒市に生じた損害金額と考えることができる。
  もっとも、生活保護制度は、市町村のみならず、都道府県、国の費用の支弁も定めている(生活保護法70条以下)。したがって、上記返還金額のうち、後日、奈良県、国から補填を受けることができた部分については、損害金額から除外される。ただし、現時点において、その詳細は明らかでないことから、本請求の申立段階においては、一応、返還金額全額を損害として取り扱っている。
(4) まとめ
  以上によれば、生駒市は、(1)影林に対し1045万0267円、(2)石倉に対し73万8785円、(3)小紫雅史に対し、1118万9052円の損害賠償請求債権を有している。
  また、上記(1)と同(3)、同(1)と同(2)の債権は、それぞれ不真正連帯債権の関係にある。
5 監査請求期間の起算点について
  本請求は、生駒市長において、相手方らへの損害賠償請求権の行使を怠っていることを理由とするものであり、地方自治法242条2項にかかる監査請求の期間制限には服しないと考える(いわゆる「真正怠る事実」に該当する)。
  もっとも、百歩譲って考えても、2022年9月16日までは、実際上、債権の行使は不可能であったのであり、2023年9月16日までは、監査請求が可能である(最判平成9年1月28日民集51巻1号287頁)。
6 まとめ
  請求人らは、地方自治法242条に基づき、生駒市監査委員において、厳密な調査を実施の上、各関係者に対し、必要な法的措置をとることを求め、本請求に至ったものである。
以 上

疎明資料
 
甲1号証      生活保護法第63条に基づく費用の返還請求の取消しに伴う返還について(令和4年9月13日生生第392号)(同日付生駒市福祉事務所長鍬田明年作成)
甲2号証      生活保護法第63条に基づく費用の返還請求の取消しに伴う返還について(令和4年9月13日生生第394号)(同日付生駒市福祉事務所長鍬田明年作成)
甲3号証      生活保護法第63条に基づく費用の返還請求の取消しに伴う返還について(令和4年9月13日生生第396号)(同日付生駒市福祉事務所長鍬田明年作成)
甲4号証      「生活保護受給者の「年金記録問題」への対応について」(厚生労働省社会・援護局保護課保護課長平成19年12月28日事務連絡)
甲5号証      「県裁決、生駒市の処分を取り消し 生活保護申請却下された女性の審査請求で」(「奈良の声」2021年12月21日配信、同月23日更新)